診療の緊張をほどく、
木と曲線に包まれた動物病院
ティンバーライク - あさひかわのどうぶつ診療所 in 北海道旭川市
ダブテイルログの温もりと、動物病院に必要な機能を在来工法で両立
動物病院は、動物にも飼い主にも緊張が生まれやすい場所です。そこで本計画では、無機質な医療施設ではなく、木の手触りと親しみやすい輪郭が最初に伝わる建物を目指しました。
構造は在来軸組工法です。見せたい場所へ大径材を部分的に取り入れ、外壁にはハンドヒューン加工を施した板材を張ることで、ダブテイルログハウスを思わせる力強い表情をつくりました。建物全体をログ構造にするのではなく、意匠、予算、診療機能のバランスを取る「ティンバーライク」の考え方を生かした事例です。
院内は、中央ロビーを核に、待合スペース、動物の大きさに合わせた診察室、手術室、バックヤードを完備しています。獣医師やスタッフが働きやすい機能性を確保しながら、来院者が場所を把握しやすく、落ち着いて過ごせる空間構成を目指しました。
ログハウスではなく、在来工法でつくるダブテイルログ風の外観
本物のダブテイルログを積み上げるのではなく、外壁へハンドヒューンした板材を張り、角ログの粗い木肌と水平の積層感を表現しています。玄関まわりには白い塗り壁と石のアクセントを組み合わせ、病院らしい清潔感と、住宅のような親しみやすさを両立させました。
ティンバーライクは、構造全体を大径材で組むのではなく、玄関、ロビー、天井架構など、建物の印象を決める場所へ木の存在感を集中させる考え方です。一方、診察室や手術室、バックヤードでは、清掃性、照度、収納、設備の納まりを優先しています。
中央ロビーのモチーフは、アルベロベッロの伝統家屋「トゥルッリ」
南イタリア・プーリア州のアルベロベッロに残る「トゥルッリ」は、白い壁と円錐形の石屋根が特徴的な伝統家屋です。小さな家々が寄り添うように並ぶ独特の街並みから着想を得て、この診療所の中央ロビーがデザインされました。
もちろん、トゥルッリの石造建築をそのまま再現したものではありません。特徴的な円錐形の屋根や、どこか親しみを感じさせる佇まいを木造建築として取り入れ、診療所の中心となる空間へと置き換えています。玄関を入ると、放射状に組まれた木の梁が広がる高い天井と、その真下に設けられた円形の受付カウンターが目に入り、自然と建物の中心へ視線が導かれます。
こうした特徴的なデザインは、単に見た目を印象的にするためだけのものではありません。初めて来院する人にも受付の場所が分かりやすく、そこを起点に診察室や待合スペースへ移動しやすい、院内の目印としての役割も担っています。
放射状の大径材がつくる、建物の中心
円錐屋根の内部では、中心から広がる大径材の梁と垂木をそのまま見せています。受付カウンターの曲線と屋根架構の放射線が呼応し、ロビー全体をひとつの大きな居場所としてまとめています。
受付から待合へ、曲線でつながる来院者の空間
中央ロビーには円形の受付を置き、その周囲へ待合スペースと各室への動線を展開しています。木製の腰壁、建具、ベンチを同系色でまとめることで、医療施設でありながら住宅のように落ち着いた雰囲気をつくりました。
動物の大きさに合わせて設けた、2つの診察室
診療する動物の体格に合わせ、診察台の大きさと高さが異なる部屋を用意しています。木製建具と腰壁で院内の統一感を保ちながら、床面や作業面は日々の診療を考えたシンプルな構成です。
大型動物に合わせた診察室
大型の犬などが乗り降りしやすいよう、低い位置に幅のある診察台を配置しています。動物と獣医師の双方が無理なく向き合える、ゆとりのある部屋です。
小型動物に合わせた診察室
小型犬や猫などを扱いやすい、コンパクトな昇降式診察台を備えています。部屋の用途に合わせて設備を選びながら、木部の色調は院内全体でそろえました。
木の温もりを見せる場所と、診療機能を優先する場所
来院者が過ごすロビーや待合では大径材と木部を印象的に使い、手術室やバックヤードでは、明るさ、清掃性、収納量、作業動線を優先しています。空間ごとに役割を明確にしながら、造作家具や建具の色で建物全体の統一感を保ちました。
診療に集中するための明るい手術室
白い壁と天井、窓から入る自然光、連続した収納によって、必要な器具へ手が届きやすい作業環境を整えています。来院者空間とは意匠を切り替え、医療機能を明快に優先した部屋です。
調剤と備品管理をまとめたバックヤード
薬品や消耗品を確認しやすい開放棚と、作業台、流し台、扉付き収納を一列にまとめています。日々の診療を支える場所にも、使いやすさと整理のしやすさを組み込みました。
動物病院の機能性に、通院体験と医院の個性を重ねる
動物病院の新築や移転を検討する獣医師にとって、建築は診察室や医療機器を納める器であるだけでなく、医院が大切にする姿勢を来院者へ伝える場所でもあります。
あさひかわのどうぶつ診療所では、ダブテイルログ風の外観が親しみやすい第一印象をつくり、トゥルッリをモチーフにした中央ロビーが医院の記憶に残る象徴となりました。その一方で、診察室、手術室、バックヤードは用途に応じて実務的に計画されています。
在来軸組工法を基本に、木を見せたい場所へ大径材を集中させるティンバーライクは、診療機能、医院のブランド、建築コストのバランスを検討しながら、他の医院とは異なる空間をつくるための選択肢となります。
ティンバーライク施設データ
- 所在地
- 北海道旭川市末広2条13丁目1-4
- 敷地面積
- 1,013.73㎡
- 延床面積
- 208.26㎡
- 完工
- 2015年11月
- 施工期間
- 8か月
- 構法
- 軸組構法(ティンバーライク)
- 使用ログ材
- 北海道産の松(国内初の乾燥材)
- 基礎
- 布基礎
- 外部仕上げ
- 屋根材:ガルバリウム鋼板(コロナルーフ+四つ切り)
建具:木製ドア
サッシ:木製ペアガラス
外壁:ジョリパット+手斧板 - 内部仕上げ
- 天井材:Vクロス
内壁材:Vクロス
床材:ビニール床シート