2025年05月1日

アメリカで蘇ったヨーロッパ由来のティンバーフレームの継承と進化

アメリカに渡った失われた伝統木造建築「ティンバーフレーム」の復興までのストーリーを紹介します。

The Revival and Evolution of European Timber Framing in the US.

ティンバーフレームの起源と伝承

ティンバーフレーム(Timber Frame)とは、大径の無垢材(ティンバー)を用いて、木組みで構築される伝統的な建築工法による住宅です。ボルトや釘などの金属製の留め具を使わず、「ほぞ穴とほぞ(mortise and tenon)」と呼ばれる仕口(接続)によって木材同士を強固に接合して建てる建築方法です。

ティンバーフレームは、中世ヨーロッパ、特にイギリスやドイツを中心に森林資源が豊かな国で盛んに使われていた木造建築技術で、16世紀以降に入植民としてヨーロッパから移住してきた人々によってアメリカの東海岸へと持ち込まれました。

入植者たちはニューイングランドや中西部において、地元で豊富に手に入るオークや松などの太くて長い(大径木)無垢材を用いて、農家、納屋、教会、商店などをティンバーフレームで建築していきました。豊富な森林資源と複数の国々の木造建築技術が融合して、これまでよりも堅牢で大きな空間を造ることができるようになりました。

ティンバーフレームの一時的な衰退

20世紀に入ると、産業革命の影響やプレハブ建築、ツーバイフォー(2×4)工法の台頭により、ティンバーフレームは急速に姿を消していきました。多くの古い建物は取り壊され、安価な新建材による住宅建設が主流となりました。この当時、多くのティンバーフレーム構造物は「古くて非効率的な建物」と見なされ、歴史的価値が認識されないまま失われていったのです。

その背景には、大径材とそれらを接合する「ほぞ穴とほぞ」の加工技術は、知識、経験、そして労力が必要であったことに加えて、2×4工法に比べて材料費と施工費が高価であったことが考えられます。

修復文化の再興と再評価

アメリカでは1970年代頃から、「歴史保存運動(Historic Preservation Movement)」が高まり、失われつつあった歴史的建築物の価値が再認識されるようになりました。

特に以下のような背景が修復の流れを後押ししました:

  • 見た目の美しさ・構造の堅牢さの再評価
  • 環境保護意識の高まり(再利用=サステナブルな選択)
  • 伝統工芸・職人技への回帰
  • 文化遺産の保全という観点

18世紀から19世紀にかけて建てられたティンバーフレームの納屋や住宅は、再利用可能な堅牢な骨組みを有する貴重な文化遺産として注目を集め、修復や移築の対象となりました。

しかしながら、すでに衰退し、姿を消しつつあったティンバーフレーム建築に関する記録や技術の継承は乏しく、当時現存していた建物を徹底的に調査・研究する必要がありました。各構造材には丁寧に番号が付けられ、慎重に解体された上で、損傷箇所は同種の木材を用いて丹念に補修されました。

その後、建物は現地もしくは新たな移築先にて再建される過程を経ながら、技術と知見が蓄積されていきました。こうした研究成果は書籍としてまとめられ、ティンバーフレーム建築は再び脚光を浴びる存在となったのです。

蘇る伝統と現代技術が融合した、今日のティンバーフレーム

現代のティンバーフレーム建築は、伝統的な木組みの技法を受け継ぎつつ、精度の高い工場プレカット加工と現場での熟練の手仕事を融合させた建築様式として進化を遂げています。大径の無垢材はあらかじめ工場で精密に加工され、建築現場では一度地面で組んだフレームを吊り起こし、接合部には一切の金物を使わず、「ほぞ」と「ほぞ穴」木製の栓(込み栓)固定しながら、各フレームを一体化させていきます。

かつてクレーンの無かった時代には、この立ち上げ作業を馬の力で行っていたという記録もあり、現代の施工とは異なる工夫が垣間見えます。組み上がった構造の外側には、高性能な断熱パネルを設置し、壁や屋根としての機能を持たせることで、伝統の構造美と現代の快適性を両立させた住まいが完成します。

ティンバーフレームは、アメリカの豊かな自然資源と職人たちの手によって独自に洗練されてきた木造建築のひとつです。骨太で温もりある構造美は、単なるデザインを超え、住む人の価値観や生き方そのものを映し出す住空間を創出します。持続可能で快適な暮らしを求める現代の人々にとって、ティンバーフレームは今もなお魅力あふれる選択肢であり続けています。

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By ハースストーンホーム | 2025年05月1日

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